なつい。

気の抜けたサイダーなんか飲めたもんじゃないね、

とよく言うが、タワシはわざわざ気を抜いてサイダーを飲んだりする。

出来立てのサイダーは喉が痛い。

痛くて味がわからん。

だから振って振って飲みたい。

そう。

タワシにとって気の抜けたサイダーは昨日の残りカレーと同じなのだ。

残り物には福があるのだ。

カレーには福神漬けがある。

 

むか〜し昔、まだタワシが若かった頃、

モントリオールに引っ越した友達のうちに遊びに行き、一番安いからという理由で乗った乗り合いバスでトロントまで帰る道すがらに同乗していたお兄たんがバスのドライバーさんと仲良く話をしていた。

どうやらお兄たんはアーティストらしかった。

明日からトロントで個展をするのだと言う。

タワシは猛烈にお兄たんに興味を持ったが話しかける理由が見つからずにずっと黙っていた。

そのうちひとり、またひとりとワゴンを降り最後はお兄たんとタワシの2人っきりとなった。

2人ならばと、とっ散らかった言葉で自分も絵を描いていると話しかけ、いろいろ話をした。

お兄たんは、今からギャラリーに行くけど観に来る?と言ってくれた。

お兄たんの作品はどれもすごくすごく面白かった。

翌日自分の描いたものを持ってギャラリーへ遊びに行くと「タワシの線はすごくいいね」と褒めてくれた。

見た目はさっと描いたような線なのだけど、実は線にはとてもこだわっていて何度も何度も描き直すので嬉しかったのを今でも覚えている。

詳細は覚えてないがパンクした自転車もなおしてくれた。

お兄たんの作品は本当に素敵だった。

小さな箱に開いた穴から中を覗くとお兄たんの作った世界が見える、そんな作品だった。

「これ欲しいけどいくら?」と聞いたら「とても高いよ。でもこうすることはできる。」と言って穴が見える世界を写真に撮って現像したものをカラーコピーしてタワシにくれた。

あのお兄たんは今どうしてんだろうか。

幸せであって欲しいと願う。

死ぬまで忘れないいい思い出である。

 

それではみなはん、また明日。

この場所で。

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