へそ上５センチが痒い。
痒い時は掻いて掻いて皮がズル剥けて滲みるまで掻いてしまう。
肌弱センシティブちゃんなもので、石鹸で顔を洗うだけで痒くなる。
だからじゃないが化粧もしないし、化粧をしないから風呂の湯船でチョイチョイと洗う程度だ。
潔癖症なので気持ちは悪いが、顔が痒くなるのはもっとやだ。
あれは高校生の時分だったか、へそがモーレツに痒くなった。
へそ上じゃなくへそそのものが、だ。
いつもの通り痒ければ掻く。
ので、気づいたら真っ赤っかになっていて流石にビビってしまった。
ビビった時はマザーのところに駆け込むと相場が決まっている。
「マザー！へそを掻いたらなんか赤くなっちゃっって怖い」
と不安げに訴えると、台所でディナーを作っていたマザーが振り返って
「またぁ。アンタはどうして〇〇〇〇…」
とぶつぶつ言いながら寄ってきた。
タワシはへそを見せた。
マザーは言った。
「あらっ！アンタ！へその向こう側に内臓が見えちゃってる！大変！早く病院行ってきなさい！」
と。
タワシはギョッとして自分のへそを覗く。
赤いが内臓なんて見えやしない。見えるわけがない。
「内臓なんて見えないよ！」と脅かされたことに腹を立てる。
怒りが心配を上回った時点で大した事ないじゃんか、と思えた。
不思議なもんだ。
マザーは大袈裟だ。
誰かが亡くなると「あぁ、こないだ会った時に死の匂いがしたんだよ」とか言う。
本当にこんな大雑把な事を言う人からタワシみたいなセンシティブな人間が生まれてくるんだろうかと思う。
しかし生まれてきたのだ。
なんだかんだとたくさんケンカもしたが、ここまで安心安全に育ててくれたペアレンツにシェイシェイ。
やれテレビの音が聞こえなくなった、やれInstagramが開けない！と些細な事で呼び出されるが、何にもできない時からオムツだの抱っこだのオネショだの、なんも言わずに世話してくれた事を天秤にかけたらそれより重いエピソードなんてひとつもない。
ホァンホァンじゃなくてトントンでもでんでんでも段田男でもなく、紛れもなく心からシェイシェイである。
よっ！ビバ・マザエンファーザー。