朝から水道凍結である。
雪は降りそうになかったので油断していた。
油断は禁物ということだ。
「油断」
むか〜しむかし、王様が家来に油を持たせて、一滴でも垂らしたら命を断つと言ったとか言わないとか。
そんな事で命を断たれたらたまったもんじゃない。
料理もできないじゃないか。
まぁ、大してしないけどな。
料理には分量というものがある。
こくまろを買ってきたって、しっかりと裏面には作り方と分量が書いてある。
うちのファーザーは生真面目だ。
待ち合わせの5分前に着くのは遅刻だと思っている。
そんなファーは料理ができない。
ワタシもブラザーもジュニアだった頃、マザーが入院した事があり、毎朝朝食はファーが作る卵とソーセージのスクランブルエッグであった。
だからワタシはスクランブルエッグを思うと、ファーが台所に立っている姿をセットで思い出す。
もう食べたくない、と不貞腐れていたことも。
そんなファーがある日、また台所に立ったのだ。
ちょうど量りを出しているところだった。
ワタシはまさかのケーキでも焼くのかと少しだけ心躍る。
しかしファーが作ろうとしていたのはケーキではなく、カレーであった。
カレーの作り方を知らない生真面目な人物は、カレーを作るために量りを使うのかと感動すらした。
なぜならメイド バイ ファーのカレーは相当旨かったのだから。
レシピというものは、それが一番旨いと思って書かれているわけで、なるほどレシピの重要性をあの日初めてワタシは知ったのである。
ファーと言えばの思い出がもうひとつ。
マイファミリーはみんなメガネをかけている。
そして、ファーだけは寝る前にメガネを置く場所をピアノの上と決めていた。
ある朝、マザーは台所で朝食の準備を、ワタシはその朝食をテレビを観ながら食べていた。
そこへファーがやってきて「おはよう」と言いながらピアノの上のメガネをかけた。
ワタシもマザーもファーを見ることなく「おはよう」と言った。
するとファーが
「なんだ、今日は随分と曇ってるなぁ」
と言いながらこちらを向いたのでワタシもファーを見た。
ファーは寝巻きにワタシのサングラスをかけて、そして今日の曇り空を嘆いているではないか。
それは昨日ワタシがピアノの上に置いたサングラスだ。
一瞬冗談かと思ったが生真面目なファーはふざけない。
ワタシは恐る恐る「なぜサングラスをかけてるのか」と尋ねた。
するとマザーも振り向いた。
時間が止まった。
ファーは「ん?」と言いながらワタシのサングラスを外して
「なんだ、これ。おまえのか」
とだけ言って自分のメガネをかけ直した。
何事もなかったかのようだ。
マザーとワタシは腹筋が痛むくらいに爆笑だ。
しかしファーは何も言わずに朝食を食べる。
生真面目とは一体なんなんだろう。
よくわからない。
ファーのオナラは異常に臭いので、マザーが激怒して
「オナラは他の部屋でやってくれ」
と怒鳴ってから何十年、今でも律儀に部屋を出る。
生真面目とは尊敬に値する気がしている、今日この頃である。