ジャーニー

和幸何年ぶりの空港だろうか。

早く着きすぎた空港で暇を持て余している。

行かなすぎて空港をディズニーランドか何かと勘違いしていたタワシはあまりのギャップにションボリしてしまった。

まだ2時間以上もある。

今こそ書け、タワシ!

小腹が空いたがレストランはどこも長蛇の列だった。

和光で弁当を購入し、テラスで飛行機を見ながら弁当を食す。

それにしても実家がネイバーフッドなタワシは帰郷を知らない。

幼い頃にマザーのマザエンヌ、いわゆるばぁちゃんちへと寝台特急ブルートレイン さくら号に乗った思い出だけがタワシの帰郷である。

飛行機が角度をつけて浮遊し始めた。

耳が遠い。

窓から地上を見下ろすと道路沿いの電灯が網目になっていた。

まるで夜に光るマスクメロンのようだ。

マザーは隣でタワシに「今夜は綺麗な半月だね」と翼の先端に灯るライトを指差してしみじみしている。

マザー、あれは人工的な灯りだよ、と伝えた30分後にタワシも同じライトを見てしみじみ綺麗な月だと感動するのだが。

せっかくなのでフライトミュージックを聴こうとイヤフォンをつける。

 

暗がりに

ひとつだけ

空のシート光る

お前が愛した場所さ

 

これだこれこれ。

昭和歌謡。

ベストテンが始まるとテレビの前にあぐらをかき、カセットレコーダーの録音ボタンを押す。マザーが「早く風呂に入れ!」と怒り狂った声を張り上げて近づいてくる声も一緒に録音されて、タワシの逆上する声もかさなる。

そんな雑音混じりの曲を何度も巻き戻して聴きながら明星やら平凡に付いてきた歌本を片手に歌を覚えた。

いろんな事が不便だったがまさに青春だった。

もう不便な生活には戻れまい。

もうマザーとケンカもしない。

リムジンバスとタクシーを乗り継ぎホテルへとうちゃこ。

さてもう夜も更けた。

明日も早い。

ぐっすり寝るだに。

それではみなはん、また明日。

この場所で。

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