なんて言わないよ絶対。
いつでもタダで手のひらに広がっているもんだと思っていたエンタテインメントがこの時代においても実はカネがなければ手に入らなかったという事実を突きつけられても。
さて。
明日を乗り切ればギガの充足とともに9月の到来だ。
最近では家路に着く頃には空も暗くなっていて、あぁ冬が近づいてきているんだなぁ、と思う。
やっとタワシの季節がやってくる。
乾燥バンザイ。
バイバイ湿気。
ところで先日、マザーのおともだちが「引っ越しをするのでほしいものがあったら持ってって」とおっしゃった。
マザーは乗り気でタワシも一緒にお邪魔した。
レトロなものがたくさんあるだろう、と内心ワクワクしていたのだが、なぜかマザーが「タワシはかわいいものが好きなのよ」と、生まれてこの方一度も口にしたことのないワードを伝えていた事が原因で、欲しいものはなかった。
レトロなものは水曜日に45ℓのゴミ袋で3つ、捨てたそうだ。
エルメスとかウェッジウッドとか、本当に可愛らしいカップが並んでいてタワシはタワシである事を詫びた。
一方でマザーは、もう全部捨てると言っていた着物や帯や茶道具を、獲物を狙うタイガーのような目つきで「あら、これアタシ大好きじゃないの」と言いながら全てかっさらっていた。
この人は…と思いながらタワシはせっせとマザーが散らかした品々を箱にしまう。
せっかくの休日だったのでタワシマニアTを着て出かけたのにマザーは押し入れの中にある箪笥の奥の隙間に入っているらしい炭が欲しいと言った。
3人ともぽっちゃりなので入るのは無理と思われた。
家主は陽気で素敵な人だったが「お嬢ちゃんが私より痩せてるから」と宣言し、結局タワシが隙間に入り、おNEWのタワティーは胸とお腹がこんがりと日焼けしたみたいに汚れた。
嗚咽してしまいそうだった。
しかしせっせと炭を4袋取り出し、置いた。
マザーは未だタイガーのまま、品定めをやめない。
片手に収まるほどしか頂かなかった食器に家主は驚き、店をやるならこういうのを飾りなさい、といろいろと勧めてくれた。
何度も「飲食店じゃないんです」と伝えたのだが、飾ればわかる人にはわかるから、と仰るので、なんだかそんな気がして頷いた。
用事があるタワシは「お先に失礼します」と言うと、マザーが早急に欲しいという着物などを袋に詰めてタワシに持ち帰れ、と手渡した。
早急に必要なはずなどない。
タワシが連れて来られた理由が今はわかる。
荷物を抱え、玄関で家主にもう一度ご挨拶をしようと振り向いたらすでに扉は閉まっていた。
働くとはこういうことだ。
わかる人にはわかるというあの器をどこに飾ろうかと考えながら家路に着いた。
よい一日だった。
それではみなはん、また明日。
この場所で。