風が何かを運び、持ち去る

午前中はホスピタルへ行ったので会社には昼に着いた。

おじーたんは昼を過ぎると10分ほどでどこかへ行ってしまうのだが、デスクにはまた例のピーチのジュースが置いてある。

おじーたんに「気に入ってますねぇ」と言うと「今日…持ってきたんだよ」と、主語の抜けた文章でタワシに言った。

どうやらおじーたんはあの日ピーチでワイワイしたからっつってタワシのためにとピーチを買ってきてくれたらしい。

その時はちゃんと冷え冷えだったんだよ、と。

来てみたらタワシがいないのでジュースはどんどんぬるくなってしまった。

水滴も残らぬほど常温になったジュースだったが密かにタワシの心は火傷しそうなくらいに熱くなった。

お互い大げさに口には出さなかったが。

さらに1ヶ月ほど前から仲間になったお嬢さんがいる。

仕事中に話すような機会もないし、その後も別段話すこともないのであまり話したことはないが。

一度、帰りが一緒になった時に仲良く話した程度である。

そんな彼女が今日は開口一番に「大丈夫ですか」と心配してくれている。

「あぁ、大丈夫大丈夫。」と言ったが少し驚いた。

帰り際にももう一度聞かれた。

たしかに彼女が入ってから毎週有休をとり、病院へ行っているし、そんな感じなので詳しい説明は抜いて急に休んで迷惑をかけます、と伝えてはあったが。

それにしても、このご時世だ。

個人情報保護法だの、気をつかって触れないようにしておこうだのと大変な時代である。それを飛び越えてまず、大丈夫ですか?と心配してくれる。

なんだか懐かしいような、やっぱりあったけぇような気持ちになった。

いろんな優しさがあるし、その優しさを否定する気はさらさらないが、もしかしたら迷惑だと思われるかも…というリスクを背負う決意の上できちんと心配するってすごいな、と思った。

同じ立場では自分もすごく迷うし、答えがわからなくなってそのまま何も言わない、行動しない事がたくさんある。

しかしその奥には自己中心的な思いが強くあるのだ。

人を思うってことを教えてもらった火曜日晴天の霹靂である。

時々ある、こういった遠い知り合いからのあったけぇ気持ちは思い出となって遠い未来でふと思い出したりするんだろうか。

それともすぐに忘れてしまうんだろうか。

忘れたって、忘れられたっていいじゃないか。

今があったけぇなら。

 

それではみなはん、また明日。

この場所で。

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